黒魔法
黒魔法
宗教を起源とする魔法は、自然の本質を追究する科学に属するものだった。
時代が下るとともに、魔法は自然現象そのものを操作する術に変容した。こうした術を体系化し洗練したのが黒魔法であり、これを修得しようとする者はその大半が研究者だった。黒魔法の使い手がウィザード(学識者)とも呼ばれるのは、このためである。
1800年に起こった第四次大陸戦争で、アレクサンドリア王国は人工兵器である黒魔道士兵を軍の主力とし、大陸の統一を図った。このとき黒魔法は多くの人命を奪い、それにより戦争に無関係だった一般の黒魔道士さえも冷遇されることになった。だがこうした状況は、外側の大陸にマグダレン魔法学院が置かれたことで改善へと向かっていった。現在、黒魔法は新たな時代を迎えようとしている。
ファイア・ブリザド・サンダー
これらの術は「最古の三大魔法」と総称される。もとは儀式や祭礼を華やかにするため、黎明期に編み出されたものだ。空気分子の運動に作用するもので、局所的に天候を変化させる。戦時には攻撃手段として認識され、これを使う黒魔道士は各軍の主力を担うことが多かった。三大魔法は、白魔法エアロに起源をもとめられることから、白と黒という魔法の二極化を象徴する術でもある。
ファイアは分子運動を促進することで空気を加熱し、火炎を生み出す魔法である。低級の術者が使ってもせいぜい手元に火球を作り出す程度だが、より強力な術者がこの魔法を用いれば、巨大な炎で対象を一瞬で焼き尽くすことも可能だ。
ブリザドは分子運動を抑制し、それによって冷気を発生させる。術の発動時には周囲に一定量の水分が存在することが不可欠とされ、三大魔法の中では最も扱いにくい。冷気そのもので敵に凍傷を負わせることもできるが、むしろこの魔法が真価を発揮するのは、地表・空中の水分を凍結させて、氷そのものを攻撃に利用したときである。
サンダーは空気分子ではなく電子そのものに干渉することから、厳密には他の三大魔法と一線を画す。大気中の電荷バランスを崩し稲妻を呼び起こすこの魔法は汎用性が高く、いかなる戦況にも対応することが可能だ。また高度な術者なら、電気ではなく磁力を操作することもできる。
先述のとおり、サンダーの発動には特定の条件が関係することは無い。逆にファイアやブリザドは、その術を使う環境によって威力が大きく変化してしまう。たとえば砂漠などの乾燥した場所でファイアを使うと、ごく少ない魔力で巨大な火球を作り出すことが可能だが、ブリザドはその効果を半減させてしまう。逆に湿潤な沼地などでブリザドを使った時は、その力を大いに発揮することができる。しかしファイアは、こうした環境では十分な威力を期待できない。
ウォータ
自然そのものに干渉する黒魔法は、空気分子以外の物質を操ることもできる。水を結集して対象の攻撃に利用するウォータもその一つであり、この魔法は術者によってその性質・形態が大きく異なる。通常は水流の形で敵を倒すために使われるが、高度な術者はこれを雨や霧の形で発現させることもできる。
グラビデ・メテオ
空間を歪め、重力を操る。そのように高度な技術を要求されるのが、このグラビデの魔法だ。本来は、ある二地点を行き来するために研究されていた転移魔法を攻撃手段として転用したのが、この魔法の始まりだとされている。
元来グラビデによる重力の制御は難しく、敵に致命傷を与えるほどの威力を引き出すには膨大な魔力を必要とした。これを実現し、敵勢力の殲滅を目的に編み出されたのがメテオである。局地的に重力を操作することで大小の隕石を落下させるメテオは、しかし友軍に被害が出ることも多く、これを用いる黒魔道士は年々減少していった。
黒魔法に分類されるグラビデだが、この術は白魔法にも取り入れられている。重力を操作しやすく改良したその魔法をレビテトといい、対象を宙に浮かせる効果を持っている。高度な術者なら、空を自在に飛ぶことも可能だ。
ポイズン・バイオ
ポイズンは自然界に普遍的に存在する毒性物質を抽出し、対象の体内に注入する攻撃魔法である。好対照をなすポイズンとポイゾナはもともと同一の術であり、用途の違いが分類に反映されている。これらの魔法は、黒魔法と白魔法の比較研究においても代表的な例として挙げられる。
バイオは、決して効果が高いとはいえなかったポイズンを改良し、殺傷力を劇的に向上させた術である。これは雑菌や病原菌を魔力によって増殖・巨大化させ、それらが分泌する毒素を攻撃に利用したものだ。
スリプル・スロウ・ストップ
スリプルは対象の神経に作用し、睡眠を促す補助魔法である。この術は、もっぱら修行中の魔道士を瞑想状態に導き、その能力を高める手段として使われてきた。戦闘に用いるには効果が薄く、黒魔法の中でも珍しい位置にある術である。
スロウは反射神経を鈍らせることで瞬発力を削ぐ魔法であり、これをさらに強化したのがストップである。とくにストップの魔法は、全身の神経系を遮断するだけでなく筋肉の運動までも制御でき、この術にかかると身動きがとれなくなる。
ドレイン・アスピル
敵から体力や魔力を吸い取り自分のものにするドレインやアスピルの魔法は、攻撃と回復を両立させる非常に有用性の高い術である。戦時には魔道士が進んでこれらの魔法を修得し、体力・魔力の補給手段として活用した。
本来これらの魔法は、自分の体力・魔力を味方に分け与える目的で開発されたものであり、その性質は白魔法に近い。しかし味方同士でこうしたやりとりをするよりも、敵兵から一方的に体力・魔力を奪ったほうが効率が良い。こうした観点から、ドレインとアスピルは危険な黒魔法へと変貌していった。
デス
相手の命を一瞬で奪ってしまう、最も黒魔法らしい黒魔法。それが、このデスである。
白魔法にはレイズという伝説の術が存在する。これは一度停止した生体機能を超活性化させ、死者を蘇生させる究極の回復魔法である。理論上は可能であるとされているが、レイズの魔法を使い実際に死者を蘇らせたという実例は無い。即死魔法デスは、この蘇生魔法の研究中、偶然に発見されたものだった。
フレア
あくまで、ファイアやブリザド、サンダーといった魔法は自然の本質を学ぶ過程で生まれた術だった。つまり黒魔法は建設的な目的のために開発されたのであり、その発展は社会への奉仕と同義だったのである。
しかしフレアは、そうした黒魔法の性質から外れ、初めから軍事利用を前提に、ただ敵兵の殲滅のみを念頭に編み出された攻撃魔法だった。そのためこの魔法は、時に邪術とも称された。
ひたすら破壊力のみを追求したこの術は、高密度に圧縮した魔力を一気に炸裂させることで対象を消滅させることさえ可能とする。その分魔力の消耗も激しく、たとえ高階梯の魔道士でもこれを使いこなすのは難しい。
白魔法 目次 青魔法
編集後記
上で挙げた魔法が、黒魔法の全てではありません。ブレイク、コメット、ジハード。これら3種の魔法が欠けているのです。これらの術について、いくらか解説しておきましょう。
まずは対象の体を石化し、その動きを止めるブレイク。その効果はデスやストップによく似ており、あえて設定を書き出す必要性を感じません。
僕は「石化」という現象をかなり重大視しています。石化は、様々な神話や伝説において最も強力な呪いの一つとして扱われています。そしてそうした呪いを解く方法は、ごく限られているものです。
ブレイクという魔法が存在するならば、それと対をなすストナも存在しなければなりません。たとえ主人公の仲間が敵によって石化されても、味方に白魔道士がいればこれに対処することができてしまいます。むしろここは、主人公たちに白金の針を探し出すくらいの苦労をして欲しいところなのです(笑)。僕がブレイクについて記述しなかったのは、こうした理由があったためです。
コメットは、隕石を呼んで対象に攻撃を見舞う魔法であり、その性質はメテオに酷似しています。しかしその威力は不安定で術の規模も小さい。そのうえ、メテオに比べて歴史が浅い。必然的にコメットの影は薄くなってしまうのです。そのうえ僕は、早くからメテオとグラビデを関連づけた設定を考え出していました。しかしコメットにはそうした個性を見出せないまま、設定を考えるのを後回しにしてきたのです。
こうして、コメットという魔法の存在感は僕の中から消え失せていきました(爆)。それとは逆に、メテオは最強の重力魔法として確立されたのです。
ジハードは、闇の力を操る攻撃魔法です。ただしその効果は敵味方全体に及び、使用には細心の注意を払わなければなりません。この魔法を使って全滅したプレイヤーは、決して少なくないでしょう。僕もその一人です(笑)。ジハードは黒魔法の頂点に座しえる術とも考えられますが、僕は、フレアにこそ最強の黒魔法であって欲しいと思っています。そしてそれと対をなすのも、やはり最強の白魔法であるホーリーなのです。こうしたことから、ジハードには他の黒魔法と異なる起源を設定しました。
「かつて、暗黒に堕ちた魔道士によってジハードは編み出され、その強大な力によって多くの命が失われた。しかし後に、この邪術は永遠に封印されることとなり、これを用いる魔道士は二度と現われることが無かった」
これが、僕の中にあるジハードの大まかな設定です。もしかしたらビビは、歴史に語られることのないもう一人のジハードの使い手なのかもしれません。