白魔法



白魔法


 魔法は、祈祷によって病気を治したり、天候を操るなどするために生み出された。この本来の形態を受け継いだのが白魔法である。白魔道士は時にプリースト(祈祷者)と別称されるが、これは白魔法の使い手に聖職者が多かったことによる。
 元来平和利用を標榜してきた白魔法だったが、霧の大陸で戦争が頻発したことで、各国は白魔法の軍事利用を図った。そうして人命を救うため編み出されたはずの白魔法の中に、人を傷つける術も生まれてしまった。霧が晴れた今、そのことを反省し、白魔法を平和的に利用しようという機運が高まりつつある。


ケアル・ポイゾナ・ライブラ

 白魔法には回復の効果を持つものが多い。たとえば傷を負ったとき、生物は自らの治癒能力でその傷を癒そうとする。体内に毒性物質や病原菌が侵入したときも、免疫機能などによってこれに対処しようとする。ケアルやポイゾナなどの魔法は、こうした生物の治癒能力や免疫機能を高める効果を持っているのだ。

 ケアルは戦闘などによって負った傷を治すために開発された。これは細胞分裂を促進させることで負傷者の治癒能力を高め、傷を治療するのである。傷を治すと同時に疲労物質も解消し体力を回復させることもできるので、この魔法は非常に汎用性が高い。リジェネは、ケアルの効果を一定時間持続させるために魔力を調節したもので、非常に高度な技術を要する。

 ポイゾナは生態の免疫機能を向上させ、体内にある毒性物質を無毒化することができる。天然毒であれば、その全てを無毒化することが可能だ。もともとこの魔法は、食中毒の対策として民間で生み出されたものだった。その後、暗殺を警戒した王侯が術者に改良を命じて毒殺の防止策として効果を高めていったのが、現在使用されている魔法である。

 ライブラは比較的歴史の浅い魔法である。これは、患者の容態を正確に把握するため医師が新たに開発した術であり、魔法と医療が不可分の関係にあることを示す好例だ。
 この魔法は、術者が魔力を患者の体内に放出し、魔力が内臓や骨に反射するのを感じ取って体内の様子を把握する。


プロテス・シェル・リフレク

 プロテスやシェルなどの魔法は、本来は人命を守るという目的のために編み出されたものだった。しかし同時に、これらの術は頻繁に軍事転用され、戦争に占める白魔法の地位を高めるきっかけとなった。

 プロテスは魔力の膜で体を包み込み、物理的な攻撃を防ぐ魔法である。もとは土木工事の作業中に怪我をしないよう、労働者に使われた術だった。しかし戦争が繰り返されるうちに敵兵の攻撃から身を守るため用いられることが多くなり、その効果も高まっていった。

 シェルは黒魔法による友兵への攻撃を防ぐため、軍事利用を前提に開発された魔法である。盾や鎧に術を施したり、対象そのものに使うことで攻撃魔法によるダメージを軽減するこの魔法は、人命保護を旨とする白魔法の性質に則してはいる。

 リフレクは最強の防御魔法であり、殺傷効果を持つものが多い黒魔法に対抗し編み出された。魔法そのものを反射するこの術が開発されたことで、白魔道士が前線に立つ機会も増加したが、リフレクによって反射された攻撃魔法を受けて死亡する術者も急増した。それと同時に、これらの防御魔法を無力化するデスペルも編み出された。


フェイス・ヘイスト・バーサク

 防御魔法がもともとそうだったように、労働作業の効率を高めるために開発されたのがフェイスである。一時的に筋肉を強化するこの魔法は、白魔道士自身が腕力を高め、肉弾戦を可能にするための手段ともされている。

 ヘイストは反射神経に作用することで瞬発力を上げる。敵の攻撃を避けたり、より素早く動けるようにするために使われる。しかし、この魔法は時空を操作する術とも考えられ、別の分類にすべきという主張もある。戦場においてヘイストは、軍隊の機動力を向上させる術として重宝された。

 バーサクは筋力と反射神経を同時に高める魔法であり、その戦術的効果の高さから、一時は最も理想的な白魔法とさえ評価された。しかしこの術にかかった人間は理性を失い、敵味方の関係なく攻撃することがあった。このことから、バーサクの使用には細心の注意を必要とする。


ブライン・サイレス・コンフュ

 白魔法の多くは傷病の回復や肉体の強化など、味方を助力するために用いられる。しかしこれらの術と違って、対象に何らかの不利益を与えるものも少なくない。ブラインやサイレスは、その代表例だ。

 視神経そのものに作用するブラインは、敵の視覚を奪う。これは神経そのものを傷つけるのではなく、あくまで神経系の情報伝達を遮断する魔法である。これと対をなす白魔法にブライナがあるが、この術はブラインによって失われた視力を回復するために開発されたものだ。そのため、眼球や視神経そのものが傷ついたことで低下した視力は、ブライナでは回復することができない。

 サイレスは対象の聴力を封じると同時に、魔力を司る器官の機能をも制御する。魔道士は呪文を詠唱することで魔力を高め、魔法の威力そのものを向上させる。高階梯の術者であれば、中級程度の魔法までなら詠唱しなくても十分な効果を発揮する。サイレスは、こうした魔道士の能力の高低に関わらず術者の魔力を封じることができ、非常に高度な魔法といえる。

 人の精神を錯乱させ同士討ちを引き起こすコンフュは、ブラインやサイレスと同じく敵の戦闘能力を削ぐことを目的として生み出されたものであり、非常に攻撃的な白魔法だ。


エアロ

 これは新時代の魔法として扱われることもあるが、実際には最古の三大魔法に先駆ける術である。
 エアロは空気分子そのものに作用して風を起こす効果を持ち、田畑を鳥や虫の害から守るために古くから用いられてきた。もとは天候を操るために生み出された魔法で、三大魔法の原型となった術である。
 黎明期には白魔道士が護身のために修得することが多かったが、最古の三大魔法に比べて威力が小さく、戦場で用いられることも少なかった。軍事利用される機会の無かったエアロは、攻撃魔法でありながらごく緩やかな発展を遂げていった。平和利用に徹した、非常に珍しい白魔法といえる。
 だが霧の晴れた現在、この術の価値を見直す動きが生まれ、護身の手立てとして用いる白魔道士が増えつつある。それに伴い、エアロを強化したトルネドが新たに開発されることになった。


ホーリー

 闇を祓い、邪を滅ぼすホーリーは、数少ない攻撃系の白魔法である。
 もともとこの魔法は聖職者が修得することが多く、決して戦争で用いられるような術ではなかった。しかし俗世的な術者によって攻撃手段として利用されるようになった。極限にまで魔力を高めそれを炸裂させるホーリーは物理的な威力も大きく、攻撃手段の限られる白魔道士にとって非常に有用な魔法だった。
 戦乱の時代を経て、ホーリーの威力はさらに高まり、最高級の殺戮魔法としてフレアと比肩されるまでになった。



目次  黒魔法


編集後記


 上記に挙げた白魔法は、FF9に登場した白魔法をすべて網羅していません。それとは別に、ゲーム内では登場しなかったエアロなどの魔法を取り上げていたりします。ここでは、どうしてそのような書き方をすることにしたのか、僕の考えを述べておくことにしましょう。

 まずは蘇生魔法レイズ。分類からすると、これはケアルに属する術と思われます。つまり最強の回復魔法です。でも僕は、白魔法についての考察からこれを除外しました。死者を蘇生させるレイズ・アレイズはいわば禁忌の魔法であり、術者の負う危険性も非常に高いことでしょう。白魔道士が自ら封印を施し、レイズの使用と教授を禁ずることも考えられます。
 何より物語を書く上で、蘇生魔法の使い手が登場してくるという展開は、モノカキとして非常に都合が悪いのです。主人公たちが必死の思いで魔王を倒しても、その手先が「レイズ」と一言唱えるだけで魔王が復活してしまいかねない(汗)。そんな事態が想定されるような世界観は、極力避けた方が良いと思ったのでした。

 ブラインと対をなす術としてブライナを挙げていますが、これはゲーム内で登場することがありません。ですが軍事的に重要な位置にあっただろう白魔道士が、そんな片手落ち同然のことをするでしょうか。むしろ友兵にブラインをかけられることを想定して、その回復手段をあらかじめ開発するのではないでしょうか。ブライナの記述を加えておいたのは、こうした考えにもとづくものです。
 逆にストナや、より高度なエスナについての記述はありません。ただしエスナについては記述が無いものの、使い手がごく少ない高度な治療魔法として存続させています。

 みなさんが最も戸惑うのは、エアロについての記述でしょう(笑)。しかしこれらの魔法は、僕にとって非常に思い入れの深いものなのです。
 風属性の攻撃魔法であるエアロは、FFシリーズを通して不遇の運命にあり、青魔法に分類されたこともありました。9にいたっては、モンスターの固有技になりさがっています(泣)。
 エアロは最古の三大魔法に比べて影が薄く、白魔道士はもっぱら回復役として扱われていました。そのため攻撃手段はホーリーで事足り、エアロの地位は低下の一途をたどったのです。
 しかしある設定を思いついたことで、この魔法は僕の中で重要な位置を占めるようになりました。エアロの魔法こそがファイア・ブリザド・サンダーの起源であり、すべての攻撃魔法の雛形であるという設定がそれです。同じ空気分子を操作する点で三大魔法と共通としていたエアロは、こうして僕のお気に入りの魔法となり、エアロ・エアロラ・エアロガという風属性攻撃魔法の体系もできあがったのでした。