新時代の魔法
新時代の魔法
霧の大陸における長い戦乱の歴史の中で、黒魔法は戦力として不可欠な存在と見なされてきた。人々を救うために編み出された白魔法さえも軍事転用され、その結果、人を傷つける白魔法が生み出されることになってしまった。
英雄ビビ・オルニティアの血を受け継ぐクロマ族は、霧が晴れた後、戦争が無い平和な時代にふさわしい魔法のあり方を模索しはじめた。彼ら6人の族長はすべての魔道士が守るべき戒律を定め、マグダレンに魔法学院を開いて新時代を担う若い世代を育てていったのである。
オルニティアの子らの努力はみごとに実を結んだ。現在、世界に散っている多くの魔道士――白魔道士や黒魔道士そして青魔道士が、自身が持つ力を平和のために使っている。
トード
オルニティアの子らが、戒律を破った術者に行使するために用いはじめた魔法。白・黒・青のどの系統にも属さないが、便宜的に白魔法に分類されている。
秘薬を用いて、ある国の君主が蛙に変身したという逸話がある。この話から着想を得た族長の一人が、魔法で同じことができないかと冗談のつもりで再現したのが開発のきっかけだった。
この術をかけられた人間は蛙に変身し、行動を極端に制限されてしまう。変身を解くには、再度トードの魔法をかけるか、愛する人に口づけされなければならない。
トルネド
最古の三大魔法の原型であるエアロは、もとが白魔法に分類されていることもあって、比較的、威力の低い攻撃魔法だった。このエアロが青魔法に取り入れられて、ツイスターが編み出された。さらに新時代に入って、そのツイスターを参考にしながらエアロを強化したのがトルネドである。
風を操るエアロは扱いも容易であるため、白魔道士の護身手段として多用されている。とくに熟達者の多くが、巨大な竜巻を起こすトルネドを切り札として重宝している。
ホールド
捕縛・拘束の手段として開発された魔法であり、魔力によって作り出された縄や網によって対象を縛りつけ、その動きを封じる。平和利用という白魔法の原点に立ち返った、新時代の魔法である。
この術は、族長の一人によってまず理論が提唱され、その理論を白魔道士が実践する形で完成された。「オルニティアの子ら」と呼びならわされている6人の族長は、黒魔法はもちろん、白魔法や青魔法にも精通していた。
テレポ
かつて黒魔道士が研究していた、離れた場所を行き来するための空間転移の魔法。それをいち早く実用化した白魔法が、このテレポである。
魔法陣の中から任意の場所へ、あるいは、ある場所からあらかじめ描いておいた魔法陣の中へ移動することができる。つまり出発地点と目的地点のどちらかが固定されてしまうのだが、その代わり、一度に移動できる人数・物量が多いという利点がある。
デジョン
テレポに続くようにして完成した黒魔法。グラビデの発展形と解釈されることが多いが、本来、グラビデこそがデジョンから発展した魔法である。
デジョンは魔法陣や魔道具などを必要とせず、出発地点も目的地点も術者が自由に選択・決定できる。この点ではテレポよりも優れているが、反面、この魔法で一度に移動させられるのは術者だけ、という欠点がある。
シェイド
白魔法にも黒魔法にも、神経に作用する魔法が存在する。ブラインやサイレスは敵の視力や聴覚を奪う白魔法であり、早くから軍事利用されていた。黒魔法にもストップのように筋肉の動きを封じる術がある。シェイドはこうした術と同系列の魔法であるが、その有効範囲が他に比べてはるかに広い。
この黒魔法は、結界内にいる対象から視覚・聴覚・嗅覚・味覚を奪ってしまう術であり、この魔法にかけられた者は、無感覚の闇に突き落とされたような錯覚に陥ってしまう。シェイドは、古来より魔道士の修行に使われていたスリプルと同じく、精神鍛錬の一手段として考案された魔法だ。しかし悲しいことに、人の感覚器官を封じるその特性から、これを悪用する術者も現れてしまった。
サイトロ
患者の容態を正確に把握するため医師によってライブラが編み出されたように、旅人が行く先々で目にした風景を他人に伝えることができるよう生み出された黒魔法があった。高階梯の術者はこの術を応用して、自分を中心とする一定範囲の状況を知り、戦況を見極めるために用いた。この魔法に族長の一人が改良を加え実用化したのがサイトロである。
周辺の地形を正確に把握できるこの魔法は旅の手助けになると同時に、自らの記憶を映像化して相手の心に映し出すこともできる。
ファイアブレス
沼地の民ク族は戦争と無縁だったために、彼らが用いる青魔法もかならずしも殺傷力が高いとはいえなかった。
ファイアブレスは、対象の破壊を目的に開発された新時代の魔法であり、口から強大な火炎を吐き出すことができる。霧が晴れた後、アクアブレスと対をなす術として青魔道士が好んで用いるようになった。
ただ、ファイアブレスのように純粋に攻撃力のみを追求して生まれたこの魔法を、非人道的な術だと批判する声もある。
グランドトライン
敵を結界で取り囲み、強力な電磁場を発生させて、雷撃で敵を打ち倒す攻撃魔法。黒魔法のサンダーを応用した術だが、規模だけならこちらのほうが大きい。霧が晴れた後に編み出された、新時代の魔法である。
低級の術者では十分な威力を発揮できず、結界によって敵の動きを抑えるのがせいぜいだ。そのため、複数の術者が協力して魔法を発動させることが多い。この時の人数は3人が理想とされており、トライン(三人組)という名称は、このことに由来している。もちろん、高階梯の術者ならば一人でこの術を用いることも可能だ。
青魔法 目次
編集後記
ゲーム内では登場しなかったものの、いつか僕が書く物語に登場させたいと思っている魔法があります。上に挙げたのがその魔法です。これらについて、いくらか解説してみましょう。
トードは3で初登場した魔法です。
FFシリーズでは頻繁に使われている魔法ですが、FF9では登場しませんでした。大公シドが蛙に変身したエピソードは、この魔法を意識したものでしょう。ちなみに、トードの魔法を解くアイテムは「乙女のキッス」といい、ヒルダの口づけがシドの変身を解いたのもこれに関連しています。
トードは、シリーズを通して白・黒のいずれにも属したことがある、非常に不安定な位置にある魔法でした。トードの分類をあいまいにしておいたのは、このことを意識してのことです。
風を操る魔法、トルネドについて。
僕は、最古の三大魔法の起源はエアロにあると考えています。ファイアもブリザドもサンダーも、空気分子に干渉する点でエアロと同一の魔法といえるからです。それにこうした系統づけは「白魔法と黒魔法の分類は、じつは非常にあいまいなものなのだ」という概念を反映するように思えたのです。
そうしてエアロが僕の中で確固とした存在になると。エアロを強化した攻撃魔法の必要性を感じはじめました。もともと戦闘能力が低い白魔道士のことです。戦う手段を得るため、より強力な攻撃魔法の開発に余念が無かったことでしょう。
ていうか、白いフードをかぶりながら竜巻を操る魔道士って、とても絵になるんです(笑)。ホーリーも悪くないですけどね。
ホールドも、白魔道士の戦闘力を底上げするために採用しました。
FF4が初登場のこの白魔法は、対象の動きを封じる効果を持っていて、その性質は黒魔法のストップに酷似しています。ただしストップが神経系――つまり体内から働きかけるのに対して、ホールドは体の動きを外部から物理的に拘束します。細かいところで、いろいろ差別化を図っているんです(笑)。
テレポとデジョンは、FF1からある古株です。ともに空間の歪みを生み出して移動する魔法ですが、これらも、白と黒とで若干の差異を設定しています。
FF9にも「テレポッド」と呼ばれる魔道具が登場します。上記にあるテレポの発動条件は、このテレポッドの特性を参考にしながら考え出したものです。デジョンの発動条件はテレポよりも緩やかにする反面、その効果はより限定的なものしてあります。
シェイドの初出はFF3です。
黒魔道士は、もともとスリプルのように神経系に作用する術が得意です。このスリプルは、術者を瞑想状態に導いて想念力を高めさせるため、修行の助けとなるように開発された魔法でした。逆に白魔法のブラインやサイレスのような魔法は、スリプルと同じように神経系に作用するものの、あくまで敵の行動力を奪うために編み出されました。
シェイドの記述では、このことを強調してあります。
サイトロ。
この名でぴんと来る人はそういないでしょう。周辺の地形を把握できるこの魔法は、FFシリーズにおいて最もマイナーな魔法です(笑)。ちなみに初出はFF3で、シリーズを通して白魔法に分類されています。
白魔法のライブラは、医者が患者の容態を把握するために開発されたものでした。やはり人命を救うことを念頭に置いた、白魔法らしい白魔法です。逆にサイトロは、術者に戦場の状況を把握する手段となるため、この魔法を修得した魔道士は用兵の要となったことでしょう。この点を踏まえて、僕はサイトロを黒魔法に分類しなおしています。
後に改良が加えられ、新時代には多くの黒魔道士がサイトロの魔法を使うようになりました。霧が晴れたことで世界各地を旅行する魔道士が増え、この術が彼らの情報交換の手段となったからです。
ファイアブレスは、アクアブレスと並ぶ攻撃魔法として、青魔法の列に加えました。マスタードボムも炎を操る魔法として存在しますが、あくまで間接的な攻撃手段でしかありませんでした。そこで、敵に直接ダメージを与えられる攻撃手段を青魔道士に身につけさせることで、彼らの地位を高めようとしたのです。
というか、なんでクイナが火炎放射を覚えられないのかが分からないのです! てっきり覚えられると思っていろんなモンスターを食べ歩いたのに、事実を知ってがっかりしたものです(涙)。せめて僕の書いた小説でだけでも火炎放射を青魔法として登場させたいと思い、ファイアブレスとして取り上げたのでした。
グランドトラインやトラインは、個人的に好きな技です。FF7に登場するトラインと同じく、雷属性の攻撃魔法にしましたが、魔法の名前はFF6に即したものにしてあります。
この魔法も、青魔道士の戦法を多様なものにすると同時に、彼らの能力を底上げするために加えました。とにかく何か、ダイナミックな描写ができそうな大技が欲しかったのですね。戦闘が華やかになりますから(笑)