王立騎士団プルート
八英雄の一人アデルバート・スタイナーが率いたプルート隊。物語に登場するプルート隊は、隊長を含めて構成員わずか9名の小部隊だった。しかしアレクサンドリア王国が危機に陥った時、彼らは目覚ましい活躍を見せ、民の強力な支持を得るようになった。おそらくその後も、プルート隊は着々と軍内での地位を高めていったことだろう。
英雄たちによって霧が晴らされた後、プルート隊はどのような成長を遂げていったのだろうか。
プルート隊
1789年に御前試合で女将軍ベアトリクスを破ったスタイナーは、その勝利を称えられて、騎士団を新たに編成することを許された。プルート隊と名づけられたこの騎士団は、軍内で独立した指揮系統を持ち、多くの精鋭が入隊することになった。
「プルート隊」という名称は、1601年に起こった第十五次リンドブルム戦役で活躍したプルート三勇士に由来している。
中規模の部隊として新設されたプルート隊は、当初、王室直属の精鋭集団として男性国民の憧れの的となった。しかし隊長であるスタイナーは、武官として決して優秀ではなかった。スタイナーは剣術や用兵にこそ長けてはいたものの、一般的な常識に欠け、規律や伝統に縛られ、矜持がむやみに高く、部下を思いやるだけの余裕を持てない人間だった。そんなスタイナーから隊員の心は次第に離れ、プルート隊は年々その規模を小さくしていった。当初100名以上いた隊員数は、最終的にはわずか9名にまで減ってしまったのである。
スタイナーの成長
後に「大いなる年」と呼ばれる1800年は、第四次大陸戦争が勃発した年だった。この年の始めに当時まだ王女だったガーネットは、母である女王と対立し、隣国リンドブルムの支援を求めて祖国を脱出した。このときガーネットに同行してリンドブルムに赴いた者たちの一人がスタイナーであり、ガーネットの出奔を発端とする一連の事件をきっかけにして、スタイナーは人間的に大きく成長することになった。
「人材の掃き溜め」や「墓場」などと揶揄されつづけたプルート隊に転機が訪れたのも、やはり大いなる年――第四次大陸戦争の時だった。アレクサンドリア王国を主戦場の一つとしたこの大戦は首都崩壊という大惨事を引き起こしたのだが、この危機に際してスタイナーを始めとするプルート隊の隊員はみな獅子奮迅の働きをし、城を守り、多くの民を救った。これを機に、国民のプルート隊への評価は急激に高まっていったのである。
アレクサンドリア女王ガーネットから全幅の信頼を置かれ、また仇敵だったベアトリクス将軍と盟約を交わしたことで、スタイナーの軍内での地位はいよいよ確固としたものになった。将軍職に就いたスタイナーはアレクサンドリア軍の再編を任され、同時にプルート隊の兵員増強も図られることになった。
プルート連隊
ひとたびプルート隊が新兵を募集すると、国中から志願者が殺到した。八英雄に数えられるスタイナーを長とするプルート隊は、結成当初以上の注目を浴びた。志願者の入隊資格の有無は、スタイナーを始めとする幹部隊員それぞれが直接判断していったのだが、その結果、プルート隊は9つの個性豊かな分隊で構成されることになった。
1810年までにプルート隊の構成員は500名以上に膨れ上がり、勅命によって、プルート隊は連隊へと昇格することになった。スタイナーは総隊長として連隊全体の統率を行い、他の8人の隊長が実質的な指揮を執る態勢が整えられた。こうした隊の指揮方針は、現代にも受け継がれている。
以下には、連隊を構成する9部隊の任務や特徴、各隊の初代隊長の略歴を列記する。
第1分隊
別名スタイナー隊。
プルート連隊の中核をなす部隊。隊員の能力はみな高く、そして総合的。主に王城の守護を司っており、都市の治安維持にも深く関わっている。
プルート連隊の初代隊長であるスタイナーは、大陸屈指の戦士であり、史上最初の魔法剣士でもあった。彼は長いこと第1分隊長と総隊長を兼任していたが、1820年頃から総隊長職に専念するようになり、隊長職は副官ライアンに譲られた。これを機に第1分隊は新入隊員の教育・訓練も担当するようになり、それに伴って第1分隊には豊富な人材が恒常的に集まるようになった。
第2分隊
別名ブルツェン隊。
隊内外の情報収集を担当し、諸侯を監視することを任務としている部隊。また常に各隊員の不正に目を光らせており、他の部隊から毛嫌いされる傾向がある。プルート連隊の中でも、とくに秘匿性が高い。
ブルツェンは、情報収集を得意としていた。始めは兵士や官吏、市民の噂話を聞いてまわるのがせいぜいだったが、ガーネットが即位して間もない政権が不安定な時期に、ブルツェンの情報力は政敵の動きを把握するのに大いに役立った。その功績を称えられて、彼は隊長職に任じられたのだった。
第3分隊
別名コッヘル隊。
王城地下牢獄を管理する部隊。囚人の監督・懲罰も担当している。王城地下牢獄は、政治犯などの重罪人を収容する施設であり、重大犯罪を起こした戦士や魔道士もここに送られる。当然、彼らを相手にする隊員も、戦闘能力が非常に高い。
コッヘルはブルツェンの相棒であり、やはり情報収集を得意としていた。始め、その特技を生かすためにコッヘルは警察権を司り、事件の捜査や犯罪者の捜索を担っていた。しかし次第に他の隊と任務を分担するようになり、コッヘルは牢獄の管理と囚人の監督に専念するようになった。
第4分隊
別名ラウダ隊。
事務全般を司り、連隊全体の人事・会計を担当している部隊。他の隊に比べて知能が高い隊員がそろっており、入隊試験の筆記問題もこの隊が作成している。戦闘などにはほとんど参加しないため他の隊から軽視されがちだが、隊員はみな文武両道を旨としていて、第4分隊の戦闘力は決して低くない。
ラウダはもともと文官の出身で、王家付きの書記官の補佐を務めていた。しかし政府内の権力争いに絡んで重臣の不興を買い、人材の墓場であるプルート隊に転属されることになった。つまりは左遷だったのだが、時勢はプルート隊に味方した。後にラウダは、部隊長としてその力を存分に振るう場を手に入れた。
第5分隊
多くの砲兵や工兵を擁している部隊。連隊を技術面で支援するのが、その主な役割である。武器や防具、戦車、火器の製作や修繕も担っており、機械技術や通信技術の開発と改良も行なう。なお、連隊が所有する飛空艇は第5分隊が管理している。
トジェボンは、三国一の砲手とまで呼ばれた男だった。その能力を買われて、彼はアレクサンドリア軍の主力である砲兵隊の幹部を務めていたのだが、怠け癖が災いしてついに砲兵隊から追い出されてしまった。その直後に、人材の掃き溜めであるプルート隊に左遷されたのだが、トジェボン自身はこの異動を初めから喜んでいたという。
第6分隊
別名バイロイト隊。
王宮警備と王族警護を主任務としている部隊。その任務の性質上、他の隊に比べて王家と近しく、連隊内でも発言力が強い。のちに第6分隊長を務めたレオンハート・スタイナーが王宮騎士も兼任していたため、彼が率いた第6分隊もいつしか王族を警護するようになったのだった。
バイロイトは、プルート隊の設立時から所属していた最古参の老兵であり、スタイナーの相談役を務めていた。バイロイトは若い頃は猛将として知られ、1771年における飛空艇革命の折に、ブルメシア兵の大群を相手にたった一人で立ち向かったという伝説を残している。全ての隊員に慕われていたバイロイトは、退役してからもプルート隊隊員の精神的支柱としての役割を果たしつづけた。
第7分隊
別名ワイマール隊。
市街の警備、治安維持を主要任務としている部隊。騎兵を擁する連隊の花形で、公の式典でも第6分隊と共に王族の左右に侍すことが多い。美男ぞろいなことでも知られていて、女性の人気が異常に高い。
ワイマールは、冴えないプルート隊の中にあって際立つ美男子だった。もとは士官として軍籍に入り中規模部隊の隊長を務めていたのだが、彼は無類の女好きでもあり、方々で浮名を流していた。ついにはとある貴族の娘にそれと知らず手をつけてしまい、結果、プルート隊に左遷されることになったのである。軍から除籍されずにすんだのが不思議なくらいだが、それだけ有能だったということだろう。
第8分隊
別名ハーゲン隊。
連隊内では、もっぱら後方支援を担当している部隊。軍道や城壁の管理・修復を司り、独自に輜重隊や衛生隊も編成している。第4分隊や第5分隊と並んで文官志向が強いが、こちらはもともと体力勝負の仕事をしているため、実質的な戦闘力は先述の第7分隊、後述の第9分隊にも匹敵する。
ハーゲンは官僚の出身で、観光や土木、徴税に関わる職務についていた。仕事柄、彼は市街の地理に明るく、市民が生活に用いる経路もよく把握していて、官吏として優秀だった。しかし正義感が強く余りに仕事熱心だった彼は、政府幹部の不正を繰り返し告発したことで周囲から危険視され、ついにはプルート隊に左遷されることになった。
第9分隊
別名メルゲントハイム隊。
市街の警備と治安維持そして魔物の排除などを任務としている、戦闘に特化した部隊。司法機関の指揮を受けて、各種事件の捜査や犯罪者の捕縛も行なう。所属隊員はみな若く好戦的で、連隊内で最も活気があり、そして荒々しい。男性の人気が非常に高く、入隊志願者の大半がこの第9分隊への配属を望んでいるとされている。
メルゲントハイムは隊内一の大食漢で、斧や大槍など巨大な武器を好んで使う豪腕の持ち主であり、砲弾運びレースで優勝するほどの底無しの体力を誇る武人だった。メルゲントハイムが部隊長になると、彼のもとには若く力自慢の新兵が大勢集まってきた。彼らは復興期の混乱の中で頻発する小競り合いを収め、犯罪を防止し、魔物の侵入を防ぐことに尽力したのだった。その精神は、現代にも受け継がれている。
目次
編集後記
そもそも僕が最初にプロットを組み立てた二次小説は、FF9のエンディングから100年後を描いたものでした。その物語の中でもプルート隊が登場し、隊の幹部が主人公に力を貸すことになるのですが、そこでプルート隊という組織について深く考察するようになりました。
ゲームに登場するプルート隊には、隊長であるスタイナーの他に8人の隊員が所属していました。ブルツェンとコッヘル、ラウダ、トジェボン、バイロイト、ワイマールとハーゲンそしてメルゲントハイムです。
この顔触れを見た時、「プルート隊って、じつはすごいんじゃないか?」という思いが強まりました。
大陸随一の剣士であるベアトリクスを破ったことがあるスタイナー。
情報収集については、右に出るものがいないブルツェンとコッヘル。
人の心を打つ文章を書かせれば天下一とまでいわれるラウダ。
三国一の大砲撃ちであるトジェボン。
アレクサンドリア軍の長老格であるバイロイト。
アレクサンドリア城下町に住む女の子の顔と名前がみんな分かるワイマール。
同じく、アレクサンドリア城下町の地理をすべて把握しているハーゲン。
砲丸運びレースの優勝者であり、抜きん出た体力と速力を誇るメルゲントハイム。
あまりにも多彩な人材がそろい、しかも一人一人の能力が高いプルート隊は、大きな可能性を秘めた部隊でした。それなのにアレクサンドリア軍内では、最弱部隊と軽蔑されていたのです。
なぜでしょうか?
隊員の一人であるラウダの過去について考えだした時、その答えは見つかりました。
僕は、ラウダはかつて王家付きの書記官だったのではないか、と考えました。彼のかつての直属の上司がトットだったとも。ラウダの文章力は、トットが教授したものだったのです。
トットは、幼い頃のガーネットの家庭教師を務めていました。彼は、王家に近しい重臣の一人だったに違いありません。
しかしある時、主君ブラネによってトットは王都を追放されました。夫を失ってからブラネの治世は乱れていき、トットはそんな危うい王朝を支える数少ない良心でした。女王を諫め国を正しい方向へと導こうとするトットは、しかし同時に一部の家臣や官僚にとっては邪魔な存在に感じられたことでしょう。とくに、ブラネを意のままに操ろうとする人間にとっては障害でしかありませんでした。そのためトットは陰謀によって王都を追われ、彼の部下であるラウダにも累が及ぶことになりました。そしてラウダの左遷された先が、プルート隊だったのです。
このようなラウダの設定を考えついた時、プルート隊のアレクサンドリア軍内での位置がはっきりしました。そしてそこに所属している隊員たちの境遇も、ラウダと似たり寄ったりのものであるはずだ、と。
プルート隊は、「人材の掃き溜め」であり「人材の墓場」でした。
人格的に難がある人間、権力争いで敗れた人間、重大な不祥事を起こした人間、政府により危険視された人間が、決まって隊に送られていたのです。
ところで、このような人間ばかりを押し付けられ、冷遇されてきたスタイナーが、それでも主君への忠誠を抱き続けることができたのはなぜでしょうか。僕は、それは、彼が名家スタイナーの人間だったからではないか、と考えています。
たとえ零落したとはいえ、スタイナーは紛れもない貴族であり、王の忠臣だったのではないか、と。
ゲーム序盤で垣間見えるスタイナーの思想は、騎士的である以前に貴族的であるような印象を受けます。身分や規律に固執する彼の性質も、実はこのことと関連しているのではないでしょうか。この部分については「暗黒騎士スタイナー」を参照してください。