ガイアの範囲


ガイアの範囲


 ベアトリクスは「大陸一」の剣士だ。しかし、けっして「世界一」ではない。
 これは、霧の大陸の住人にとって「大陸≠世界」だということを示している。少なくとも彼らは、自分たちの生きるガイアという世界が霧の大陸に限られない、より広いものであると認識していた。

 たとえばジタンは、外側の大陸という「未知の大陸」が存在することを知っていたし、ブルメシアの神官キルデアや、リンドブルムの飛空艇技師ゼボルトも、南海の島々の一つにあるダゲレオを訪問している。
 はるか北方にある閉ざされた大陸でさえも、リンドブルムやブルメシアで起こった事件が知られている。
探検家イプセンや冒険王シド1世の足跡は、忘れ去られた大陸や外側の大陸に残されている。シド1世の生きた時代がガイア暦1300年代だから、この時期にはすでに大陸間を航行するだけの技術があったはずだ。

 またリンドブルム大公家は国宝として世界地図を所有していたし、この地図は非常に正確なものだった。
 アレクサンドリア城の書庫にガイア儀があったことからも、ガイアが球体であることは自明のことだったらしい。
 なにより、リンドブルム飛空艇団もアレクサンドリア艦隊も迷わずイーファのもとに来られた。霧の大陸と外側の大陸の位置関係を正確に把握していなければできない芸当だ。

 物語の住人たちは「ガイア」という世界を、かなりの部分、正確に把握していたのではないだろうか。

 ただし彼らにとって、世界は「表面」でしかなかった。唯一の例外がコーラルだった。

 ドクトル・コーラルは『テラ記』の作者だ。
 本の題名から明らかなように、彼はガイアの地下深くに異世界が存在することを知っていた。コーラルは、誰よりも早くガイアとテラ、2つの世界の真実に触れた人物だったのだろう。
 だが真実をつかみ取ろうとした寸前に、彼は手がかりをすべて失ってしまった。これら手がかりの行方をコーラルは必死に探したようだが、成果は挙がらなかったらしい。

 結局、テラの存在が知られるには、ジタンたちの登場を待つしかなかった。



 なお、コーラルも『テラ記』も、FF9本編では一切触れられていない。
 ただグルグストーンや四大の鏡についての解説で断片的に知られるだけだ。アルティマニアにも、まったく言及がない。

 コーラルのことについて、我々は少ない情報から推し量ることしかできないのだ。

 彼が「テラ」という異世界の名称をどうして知りえたのか。
 コーラルははたしてウイユヴェールやイプセンの古城に立ち入ったことがあるのか。
 コーラルが手に入れたらしいグルグストーンや鏡が、なぜ彼の手元を離れたのか……。
 英雄サラマンダー・コーラルとどういう関係なのか。

 ドクトル・コーラルは、あまりにも謎に包まれた存在である。

 そもそも彼が著した『テラ記』も、どちらかというと手記のように思われる。どこか走り書きのメモという印象があるのだ。また、推敲した様子も無い。

 もしかしたら『テラ記』という題名は、ジタン以降の時代の人間が、手記の内容からあらためて付けたものかもしれない。
「あれ、この本に書いてあるのって、もしかしてテラのことじゃないか?」というように。



Aug.2007



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