暗黒騎士
暗黒騎士スタイナー
物語中でジタンと行動をともにしたスタイナーは、アレクサンドリアの騎士であり、プルート隊の隊長を務めている。騎士の称号を帯びているだけあって彼は剣に長じており、その用いる剣技も非常に多彩である。パワーブレイクやアーマーブレイクに始まり、より高度なストックブレイクやクライムハザードまで彼は使いこなす。スタイナーは紛れも無い「戦士」であり、そして屈指の「ナイト」である。また魔法剣を編み出した彼は、ガイア史上最初の「魔法剣士」ともいえるだろう。
彼が用いる数々の技の中で、異彩を放つものが一つある。使い手の生命を削りながら、負の力によって敵を打ち倒す闇の剣技、暗黒剣だ。スタイナーはいつ、どこで、この技法を修得したのだろうか。
石工の一族
その昔、代々アレクサンドリア王家に仕える工人の家系があった。1300年代初頭に起こった第三次大陸戦争(召喚大戦)の直後には、召喚獣アレクサンダーによって破壊された王城の再建のために、彼らが力を振るった。後に増改築がされたものの、現代の王城の構造は、その大部分が彼らによってつくられたものである。
一族の多くは石工として活躍し、アレクサンドリア王城の管理・改修を担った。中には芸術家としての才能を大きく開花させた者も現われ、そうした工人の作品は、現代のアレクサンドリア城内にも残されている。
しかし戦争が頻発した1400年代、この一族から騎士として仕官する者が現われた。彼は武功を挙げたことで一軍の将に任じられ、それと同時に、新たに「スタイナー(石工)」の姓を王から与えられた。これ以後、スタイナー家は多くの宮廷騎士を輩出することになり、アレクサンドリア王家と王国のためにその力を尽くしていく。
暗黒騎士ゲック・スタイナー
忠臣にその名を連ね、アレクサンドリア王家からの信頼を得つづけたスタイナー家は、とくに軍事面で強大な力を振るった。しかし、かならずしも好戦的な家系だったわけではない。1495年にアレクサンドリア・ブルメシア・リンドブルムの三国間で講和がなされたが、当時の女王ルイーザ・セラ・アレクサンドロスはまだ幼かった。そんな彼女をよく補佐し、150年にも及ぶ戦乱の時代に終止符を打ったのが、スタイナー家の者たちだったのである。
1500年、ルイーザが16歳に達し親政を始めたのを機に、新たな親衛隊が組織されることになった。若き騎士フライネルが率いるこの部隊には、女王と年の近いゲック・スタイナーも招かれていた。しかしゲックはこれを辞退し、別の部隊に所属することを選んだ。その部隊こそが、レオンハートが隊長を務める暗黒騎士団だった。
もともとゲックは、スタイナー家の当主となるべく教育を施され、高い能力を誇っていた。剣術はもちろん各種の武術に長じ、政治・外交についても幼少の頃から徹底的に仕込まれていたのである。しかしゲックは、精鋭の集う親衛隊よりも、新興の暗黒騎士団に入隊することを選んだ。あるいは、「スタイナー」という家名への反抗心が、彼にこうした選択をさせたのかもしれない。
暗黒剣を編み出した者レオンハート
戦乱の時代は、無数の戦争孤児を生んだ。フライネル・フォウカーとレオンハート・ザイデンハイムも、そんな戦火により肉親を失った者たちだった。彼らは退役軍人のもとに引き取られ、ごく自然に武門の道へと進んでいった。そしてフライネルとレオンハートは、騎士として宮廷に出仕することになったのである。
レオンハートは幼少から負の力の扱いに長け、聖剣技と対をなす暗黒剣の技を独自に考案し、これの改良に努めていた。乱用すれば使い手の寿命を縮めるこの剣技は、しかし強大な威力を発揮するものだった。
従騎士の身分にあった頃から、フライネルとレオンハートは賊や魔物の掃討に力を振るい、その活躍は女王の目にとまった。フライネルが聖騎士の称号を受けると同時に、レオンハートには暗黒騎士の称号が与えられ、彼は史上最初の暗黒騎士となった。そして暗黒騎士団の編成が許されその隊長に任命されたレオンハートは、暗黒剣の技を学ぼうとする将兵を自らの部下とした。ゲックもまたその一人だった。
追放された暗黒騎士
フライネル率いる親衛隊とレオンハート率いる暗黒騎士団は、ルイーザのもとで力をつけ、王家と王国の守護を担うことになった。しかし、暗黒騎士レオンハートの発言力が強まるにしたがって、彼に敵意を抱く者たちも多くなっていった。そしてスタイナー家への圧力も、しだいに強まっていったのである。
1505年に王領内で起こった農民反乱が、暗黒騎士たちの転機となった。これの鎮圧に向かった暗黒騎士団は反乱民に休戦を申し入れ、その交渉に隊長であるレオンハート自らが臨んだのである。しかしこうしたレオンハートの行動を、反逆の兆しであると諸臣が女王に訴えた。実際、レオンハートは反乱民を弁護する文書を政府に送り、有力諸侯の悪政を告発した。彼に敵意を持つ者たちはこれを逆手にとり、反乱民とレオンハートら暗黒騎士全員を反逆罪に問い、その拘束を軍に命じたのである。
女王ルイーザと聖騎士フライネルの懸命な努力によって、暗黒騎士たちへの容疑は晴れたものの、彼らすべてが無罪放免とはならなかった。アレクサンドリア軍によって包囲されたとき、暗黒騎士たちは自ら盾となって、反乱民の逃亡を手助けしていたのである。このことがあだとなって、レオンハートと騎士団幹部は追放刑に処されることとなり、暗黒剣も封印されたのだった。しかしレオンハートに敵対した諸臣諸侯も、ルイーザによってその地位を奪われ、宮廷を追われていった。
主たる暗黒騎士が追放されると、暗黒騎士団は解散した。レオンハートの腹心であったゲックは追放刑こそ免れたものの家領を取り上げられ、スタイナー家は国政の表舞台から姿を消さざるをえなくなった。
王都を離れた騎士たちの多くは農耕を営み、時には傭兵として旅行者や隊商の護衛を務めるようになった。そして彼らは、封印されたはずの暗黒剣を子孫へと密かに継承していったのである。一族とともに辺境へ移り住んだゲックも、その例に漏れることはなかった。都を追われてもなお、暗黒騎士たちの王家に対する忠誠心と祖国に対する愛情が失われることはなかったのである。彼らは王国の守り手として、常に歴史の影に身をひそめながら人知れず剣を振るいつづけた。
そして300年の歳月が流れようとする頃、英雄アデルバート・スタイナーが現われた。
暗黒騎士アデルバート・スタイナー
1800年に起こった第四次大陸戦争は、ブルメシア・リンドブルムの征服を図りアレクサンドリアが引き起こしたものであった。この戦いを終結させるために奮闘し世界を覆う霧を晴らしたのが八英雄であり、スタイナーはその一員であった。彼は長い戦いの日々の中で幾度か暗黒剣を振るったが、しかしそのことを決して公言せず、仲間への口止めも欠かさなかった。
英雄として衆目を集めるようになったスタイナーは、あくまで正統な騎士としてありつづけ、自らが暗黒剣の継承者であることを明かそうとしなかった。だが彼はそれでも、暗黒騎士としての宿命に逆らうことができなかった。スタイナーはベアトリクスとの間にもうけた子供に禁忌の技を伝えたのである。そうして王族を側近くで守ることになったスタイナー家は、代々暗黒剣を密かに継承しつづけた。
たとえ平和な時代にあっても、スタイナーがそう望んだように、暗黒騎士という存在は歴史の影にありつづけた。彼らが公然の場にその姿を見せるようになるまで、さらに長い年月を必要としたのだった。
目次
編集後記
僕は「スタイナー」という姓を一目見たときから、その由来に非常な興味を抱きました。この姓がドイツ系のものであることは、すぐに分かりました。ドイツ語では石のことを「Stein」というのですが、これは英語のstoneにあたるものです。この語尾に「er」をつけたのが「Steiner」であり、転じて「石工」という意味を持ちます。このことから、スタイナーの先祖は石やその他の鉱物を扱う職人だった、という設定が導き出されたのでした。
さらに、スタイナーは暗黒剣を使いますが、これは彼がかつて暗黒騎士に師事したという証左といえます。ではスタイナーに教授した暗黒騎士とは、いったい何者だったのか。もしかしたら、スタイナー家とは代々暗黒剣を継承してきた家系なのではないか。それなら、なぜ石工の子孫がそのような技を会得することになったのか。ゲック・スタイナーというオリジナルキャラクターは、それらの疑問の解答として生まれた人物です。
さらにレオンハート・ザイデンハイムという人物が登場することで、ゲックと暗黒剣の関係はより強いものになりました。レオンハートは、ゲックにとっては暗黒剣の師であり、同時にスタイナー家の趨勢の鍵を握る存在でした。レオンハートの姓「ザイデンハイム」の由来は、FF11に登場するガルカの暗黒騎士ザイトです。つづりはドイツ語風の「Zeid」で、語形を変化させて、英語風の姓「Zidenheim」にしました。
スタイナー家と暗黒騎士、そして石工の三者がゲックによって統合されると同時に、それまでFF9の世界で浮いた存在に思われていた暗黒剣が、他と調和しはじめました。歴史的な裏づけができたことで、暗黒剣はアレクサンドリア王国の歴史を考察する上での重要な手立てにもなったのです。
ところで、スタイナーの設定案で、彼のファーストネームの候補がアデルバートの他にもあったことをご存知でしょうか。この候補というのがゲックでした。暗黒騎士ゲックの名は、これから借用したものなのです。